
サイバー保険とは、サイバー関連のリスクに起因する費用をカバーできる保険のことです。
近年では、デジタル化に伴い、情報漏洩やサイバー攻撃による業務停止など、さまざまな事故が発生しやすくなっています。
ひとたび事故が起これば、損害賠償や調査費用など多額のコストが発生するため、それをカバーできるサイバー保険の重要性は、年々高まっていると言えるでしょう。
今回は、最近注目されているサイバー保険について、その概要や必要性・注意点などについて、ご紹介します。
サイバー保険とは
サイバー保険とは、不正アクセスによる情報漏洩やマルウェア感染による業務停止など、サイバー関連の事故で発生した損害をカバーする損害保険のことです。
ビジネスシーンにおけるインターネットやデジタルツールの重要性が増すに伴い、年々、サイバー関連の事故は増えています。情報処理推進機構の「情報セキュリティ白書2022」によると、2021 年の情報セキュリティインシデントの報道件数は769件で、前年と比べて43.2%増加しているという結果でした。
このようなサイバー事故が発生すると、第三者への損害賠償や調査費用、再発防止策を講じるための費用など、多くの損失が発生します。だからこそ、不測の事態に対応するためのサイバー保険に、注目が集まっているのです。
サイバー攻撃による被害額
サイバー攻撃によって、日本でも多くの被害が発生しているのが実情です。
株式会社ノートンライフロックが発表した最新データによると、2021年の日本におけるサイバー攻撃による被害総額は、約320億円と推測されています。また、約1,620万人が、サイバー攻撃に遭ったと推定されるとのことです。
サイバー攻撃は決して他人事ではないこと、いったん被害に遭うと大きな損害につながることが、わかる結果と言えるでしょう。
サイバー保険の必要性
企業にとって、サイバー保険の必要性が高い主な理由として、次の4つが挙げられます。
サイバー保険が必要な4つの理由 |
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①サイバー攻撃のリスクを無くすことができない
②テレワークの普及によって、情報漏洩のリスクが増えている ③マイナンバー制度の導入よって、管理する情報が増える ④サイバー攻撃への脅威に備えている信頼感を、顧客・取引先から得られる |
以下で、もう少し詳しく見てみましょう。
サイバー攻撃のリスクを無くすことができない
サイバー保険の必要性が高いと言える大きな理由の一つが、いくら備えをしていたとしても、サイバー攻撃のリスクを完全に無くすのは難しいということです。
サイバー攻撃は、攻撃の方法も対象も、年々、多様化しています。例えばゼロデイ攻撃などは、プログラムの脆弱性への対策が完了する前に攻撃を仕掛けるため、こまめなアップデートやセキュリティ対策ソフトの導入を行っていても、防ぎきれない場合があるでしょう。
また、「うっかり不審な添付ファイルを開き、マルウェア感染してしまった」「設定を誤り、重要な情報を漏洩させてしまった」など、人的ミスによってもサイバー攻撃のリスクは高まります。ケアレスミスを完全に無くすことは難しいので、「サイバー攻撃に遭ってしまった場合」の備えも、重要と言えるでしょう。
このように不測の事態が起こり得るため、サイバー保険で、もしもの時の備えをしておくことが効果的なのです。
サイバー攻撃のリスクとは
サイバー攻撃に遭うことで発生するリスクは、個人情報の流出・業務妨害・巨額の損害賠償・信頼を失うなど、多岐にわたります。
サイバー攻撃のリスクとは | |
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個人情報の流出 | ・外部からの不正アクセスや内部不正、マルウェア感染などによって発生
・損害賠償や企業イメージの失墜に発展しやすい |
業務妨害 | ・サイバー攻撃によるシステムの乗っ取りやサーバーダウン・データの不正な暗号化などによって、業務継続が難しくなる
・営業利益が失われることに加え、原因究明や復旧のために多大なコストが発生する |
巨額の損害賠償 | ・情報漏洩などによって顧客や取引先に被害が及ぶと、損害賠償が必要になる
・日本ネットワークセキュリティ協会の「インシデント損害額調査レポート 2021年版」によると、個人情報を漏洩させた場合、1人あたりの損害賠償の平均額は28,308円 |
信頼を失う | ・サイバー攻撃によって情報漏洩などが発生すると、顧客や取引先、投資家などからの信頼を失う |
テレワークの普及によって情報漏洩のリスクが増えている
テレワークの普及によって情報漏洩のリスクが増えていることも、企業にサイバー保険が必要な理由と言えます。
テレワークでは、インターネット経由で、データのやり取りや社内システムへのアクセスをすることが多いため、無線ルーターやVPNなどの脆弱性を突いたサイバー攻撃を受けやすいからです。
また、重要な情報を社外に持ち出す機会が増えることでも、情報漏洩リスクが高まります。テレワーク時に私物のパソコンを使う場合、セキュリティ対策が不十分で情報漏洩につながってしまうこともあり、注意が必要です。
マイナンバー制度の導入よって管理する情報が増える
マイナンバー制度の導入に伴い、厳重に管理すべき個人情報が増えたことで、サイバー保険の必要性が高まっています。
法律でマイナンバーを漏洩した場合の罰則が定められており、最大で200万円の罰金などが科されるためです。
自社で管理するマイナンバーはもちろんのこと、業務を委託している場合は、委託先のマイナンバー管理状況を把握し適切に管理させないと、責任を負わされる可能性もあります。
サイバー攻撃への脅威に備えている信頼感を顧客・取引先から得られる
サイバー保険に加入することで、サイバー攻撃への脅威に備えている信頼感を、顧客・取引先から得られるという側面もあります。
サイバーセキュリティの重要性について理解し、必要な対策を十分に行っていることを、サイバー保険に加入することで印象付けられるからです。
データをきちんと管理し、適切な対策を取れる信頼のおける企業というイメージを構築したいなら、サイバー保険に加入する必要性は高いと言えるでしょう。
基本的なサイバー保険の補償内容とは
サイバー保険による基本的な補償内容は、損害賠償にかかる費用・事故対応にかかる費用・営業利益に関する損害の補償の3つです。それぞれ、どういうものか確認しておきましょう。
基本的なサイバー保険の補償内容 | |
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損害賠償にかかる費用 | ・損害賠償請求への支払いにかかる費用や、訴訟手続きに要する費用
・訴訟が国外で行われる際の費用を含むかどうかは、保険の種類による |
事故対応にかかる費用 | ・事故原因の調査費用、対応について法律相談をするための費用、お問い合わせに対応するためのコールセンター設置費用、謝罪や見舞金支払いにかかる費用、再発防止策を講じるための費用など |
営業利益に関する損害 | ・システムや業務が停止したことで得られなくなってしまった利益の補償 |
サイバー保険に加入する際の注意点
サイバー保険に加入する際は、次の点に注意しましょう。
サイバー保険が必要な4つの理由 |
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・補償の内容をきちんと把握し、ニーズに合うものを選ぶ
・複数の保険商品を比較する ・サイバー保険に加入しても、セキュリティ対策は徹底させる |
【注意点①】補償の内容をきちんと把握し、ニーズに合うものを選ぶ
サイバー保険は、種類によって補償内容はさまざまです。そのため、補償の内容をきちんと把握し、ニーズに合うものを選ぶようにしましょう。
例えば、国外に影響が及ぶ場合に補償範囲に入るかどうかや、事故対応費用の補償がどの範囲まで及ぶのかなど、保険商品によって取扱いは異なります。
詳細を把握しないまま加入して、いざというときに補償が下りないという事態にならないよう、気を付けましょう。
【注意点②】複数の保険商品を比較する
自社に最適なサイバー保険に加入するために、複数の保険商品を比較してみましょう。サイバー保険は、補償内容・保険料の算定・付けられる付帯補償の種類など、保険商品によってさまざまだからです。
複数の保険商品を比べてみることで、どういう補償があるのか、現在の保険料は安いのか高いのか、などが判断できるようになります。
【注意点③】サイバー保険に加入しても、セキュリティ対策は徹底させる
サイバー保険に加入したからと言って、セキュリティ対策にかけるコストを減らしては、本末転倒です。サイバー保険は、もしもの時の費用面の備えであって、サイバー事故で失う信用などは回復できません。
まずはセキュリティ対策を徹底し、サイバー攻撃などを防ぐ必要性があることを、覚えておきましょう。
まとめ
サイバー攻撃が多様化し、サイバー事故がビジネスに与える影響が大きくなっている近年では、サイバー保険に加入する必要性が高まっています。
経済産業省が「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」で、サイバーセキュリティリスクの転移策の例としてサイバー保険を取り上げていることからもわかるとおり、サイバー保険加入は、企業を安定経営するうえで検討すべきリスクマネジメントの一つと言えるのです。
今後、ますますサイバーセキュリティの重要性が高まる中、企業の価値向上をはかるためにも、サイバー保険を有効活用しましょう。
